文科省「不正検定」を正す会
令和4年10月13日
東京地方裁判所 民事第31部甲合議A係 御中
東京都文京区水道二丁目6番3号
株式会社 自由社
取締役 篠原 寿一 印
意見陳述
1 私は、この訴訟の原告株式会社自由社の取締役である篠原寿一と申します。私は、本件訴訟に原告側としてかかわっていますので、この度の原告からの50項目の質問に対する文部科学省(以下文科省)からの回答について意見陳述します。また、新たに明らかになった事実、即ち文科省が何としても自由社の中学校歴史教科書を不合格にしようとしてアラさがしに集中し、他方、他社の教科書検定が極めて杜撰かつ不法であったことについても述べます。
2 50項目に対する文科省からの回答は、詭弁や自己矛盾、論点ずらしに終始していて、学術的、かつ専門的な態度とは程遠いことがあきらかになりました。
また、検定意見の理由を変更した例もあります。最初の検定と松沢成文参議院議員の質問に対する回答と今回の国の反論とで、理由が変更されたものもあります。
これは検定が明らかに、自由社を狙い撃ちにしたことを示します。検定意見の理由が変わること自体、その理由がいい加減で、場当たり的だったということを意味します。これが文科省の検定の実態です。
3 ところで、検定に合格した教科書は「見本本」と呼ばれる教科書に製本されて、教科書会社から全国の都道府県市区町村教育委員会に送られ、教育委員会は、翌年度から傘下の学校で原則向こう4年間使う教科書を決定します。これを「採択」と言います。
検定に合格した教科書は採択を経て1年後から学校で使われますが、生徒に供与されるこの教科書を「供給本」といいます。この見本本から供給本が発行されるまでの1年間にはノーベル賞の受賞者が新たに出現したりするなどのことがあるため、供給本にはそれらを反映する必要があります。また、誤字脱字など、本来検定でチェックされなければならないものですが、検定でも見落とされた誤りも実際上幾つかあります。そのため教科書会社では文科省に対してその訂正を自主的に申請しますが、これを「訂正申請」といいます。文科省の検定が厳格に行われていれば、その後教科書会社が気付いた誤りの訂正を含めても、その訂正申請件数は、自由社の場合50件前後にとどまるものです。
ところが、令和2年度に各社から提出された自主訂正申請件数は驚くほど多数に上りました。教育出版の700件を筆頭に、日本文教出版564件、東京書籍385件、帝国書院250件、山川出版182件と続きます。そこで、その申請内容を精査したところ再び驚くべきことが分かりました。単なる社会情勢の変化に基づく訂正や自ら気付いた誤りの訂正の他に、本来文科省の検定が自由社に対する検定と同じように厳しくおこなわれていれば、指摘された筈の誤りの訂正が大量に含まれていたのです。
幾つか例をあげれば、日本文教出版の教科書では、絵図のタイトルと所蔵先は必ず書かれていなければならないのに書かれていなかったり、説明文に書かれている場所がそれを示す地図に書かれていなかったなどの例があり、いずれも訂正申請しています。しかも、それらを「誤りの訂正」とはせずに「変更が適切な体裁、記載」としています。さらに驚くべきは、教育出版では、「理解しやすい表現に変更」という理由で「雪駄づくり」の説明文を、「雪駄は江戸時代の履物で、竹の皮と牛の皮が使われていました」から「雪駄は、竹の皮と牛の皮を材料とする履物で、主に差別を受けていた人々によってつくられていました」に替えています。検定を受けて認められた説明文を、検定合格後、執筆者の一存で別の思想を付加して変えているのです。しかもこの訂正を文科省は認めていますから、これでは検定に抜け道があるということになります。
4 文科省の検定では、(1)図書の内容に誤りや不正確なところ、相互に矛盾しているところがないこと(2)図書の内容に客観的に明白な誤記、誤植又は脱字など単純ミスもチェックすることになっています。
問題は、令和元年度の検定済教科書において、これらの基準に違反する記述の訂正申請が多数出されていたということです。このことは、令和元年度の文科省の検定において教科書調査官は、自由社を除く各社の教科書検定を明らかに手抜きしていたことを意味します。
自主訂正申請件数の特に多かった教育出版(700件)と日本文教出版(564件)について、訂正申請内容を上記検定基準に照らして私達で精査しました。その結果、教育出版については476件が上記検定基準に反していて、検定意見が付されて当然と判定しました。一方、日本文教出版は、497件が検定意見を付されて当然の誤った記述でした。
そうなると、問題はそれだけでは済みません。平成27年に制定されて自由社に適用された一発不合格制度、すなわち、検定申請教科書の総ページ数の1.2倍の検定意見の付いた教科書は不合格にするという制度を適用すれば、教育出版と日本文教出版はこの制度の適用によって不合格になるべきものであったということです。換言すれば、自由社の教科書には重箱の隅をほじくるようにして検定意見を付けて不合格にし、他社の教科書には問題箇所を見逃して合格させていたということです。私達が他社の自主訂正申請を検討した結果、このことが明かになりました。
5 以上の通り、もはや教科書検定の厳格性、公平性は完全に失われて、文科省は、ひたすら自由社潰しに狂奔するという極めて憂慮すべき事態です。これが近年の中学校歴史教科書検定の実態です。厳正な裁判をお願いする所以です。
以上